1.1 Yōko Tawada – Mensagem aos leitores brasileiros

 

 

ブラジル読者へのメッセージ 

   

多和田葉子 

  

わたしがブラジルを訪問したのは2019年でそれほど前のことではありませんが、その後パンデミックに突入したので旅することもなくなり、静かな時間の中で、サンパウロ、ポルト∙アレグレ、リオデジャネイロの様々な思い出がゆっくり心の底に沈積し、発酵し、栄養になっていくのを感じます。日本の重要な文学賞の一つである芥川賞を最初に受賞したのは日本のブラジル移民を描いた石川達三の「蒼氓」(1935)でしたが、その後一世紀あまりの間に日本語文学は内向し、移民を扱った作品はむしろ例外となりました。でもわたしは日本語の文学にも充分、海を渡るほど大きな好奇心が含まれていていいと思うのです。歴史を振り返っても、「人間とは何か」という大きな問いを抱えてダーウィンからレヴィ=ストロースまで、わたしの尊敬する学者たちがブラジルを訪れました。ブラジルは今現在も世界に多くのことを教えてくれる場所です。様々な歴史的背景を持つ人たちの共存、生物の多様性を保持し地球温暖化を緩和するアマゾン熱帯雨林。わたしの視線はブラジルを離れることができません。ブラジルに住む皆様がパンデミックや政治∙経済の引き起こす困難に負けず、今年も健康に過ごされることを心から願っています。(2022年2月) 

 

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